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  • 2024/08/23
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令和6年度 理科サイエンス研修 屋久島 自然探究活動

本校の理科(生物科)主導で、生物や生態系、環境問題を体験的に学ぶサイエンス研修が、令和6年7月29日(月)から8月3日(土)の5泊6日の日程で行われました。第3回の研修地は、1993(平成5)年12月11日に白神山地とともに日本初の世界自然遺産に登録された屋久島です。この島の貴重な自然を舞台に、国内のエコツーリズムの基礎を築いた「屋久島野外活動総合センター(YNAC)」の協力のもと、高校生12名、中学生12名が「野生動物、植生の垂直分布、潮間帯の生物、海の生物」という4つのテーマでフィールドワークに取り組みました。以下はその活動内容の報告です。

1.7月29日(月) 研修初日:移動日、ウミガメ保全についての講義受講
いよいよ世界自然遺産の屋久島の自然を学ぶ5泊6日の研修がスタートします。初日は羽田から鹿児島、鹿児島から屋久島へと飛行機を乗り継いでの移動で、朝7時半に水戸を出発し、屋久島到着が17時となる長旅です。今回、宿舎としてお世話になるのは宮之浦にある「民宿屋久島」さんで、予定通りに到着しました。部屋に荷物を置いたらすぐに夕食で、島の食材を使った品々を楽しみました。
夕食後は屋久島のウミガメ保全を学ぶ講義で、民宿から会場である離島開発総合センターへ徒歩で移動します。講師は日本ウミガメ協議会屋久島支部の大野睦先生で、「ウミガメと屋久島」というテーマでお話をしていただきました。生徒たちはメモを取りながら熱心に聞き入り、世界のウミガメの現状や屋久島での保全活動について理解を深めました。大野先生には、実習中に行うウミガメのふ化調査の見学でもお世話になります。また、ゲスト参加のOBである6期生の大内博士からも、屋久島やウミガメについて貴重なお話をたくさん聞くことができました。
さて、明日からは生徒たちは2班に分かれて本格的な実習に取り組みます。屋久島も記録的な暑さらしく、ちょっと生徒の体調が心配ですが、自然をたっぷり楽しんでもらいたいと思います。

2.7月30日(火) 研修2日目 A班 野生動物調査
今日から生徒たちはA班とB班の2つに分かれて実習に取り組みます。今回の屋久島研修のプログラムは、屋久島のエコツーリズムの礎を築いたYNACの市川氏と松本氏によって組み立てられたものです。本日はA班が市川氏のガイドで野生動物調査を行い、B班は松本氏のガイドでシュノーケリングに挑戦します。
私はA班の引率として12名の生徒と共に、日本国内最大規模の照葉樹林の探索です。バスに乗り込み目的地へ向かう途中、東シナ海展望台に立ち寄り、屋久島の花崗岩と堆積岩からなる地質構造の特徴を確認しました。その後、永田いなか浜でアカウミガメの産卵地を見学しました。そこから本日の実習場所となる西部林道に移動します。
屋久島の西部地域には、野生のサルやシカが生息しており、同地は餌付けされていない野生動物を間近に観察できる貴重なフィールドになっています。この地域では、実際に野生ジカのテレメトリー調査が行われており、道路を使い比較的容易に動物の所在を確認することができます。私たちもバスを降りてすぐに、首に発信機をぶら下げたヤクシカに出会いました。そして道路を少し歩いただけで、森の斜面に数頭のヤクシカを確認することができました。次に道から外れて森の中に入り、野生のサルの直接観察を試みます。ドキドキしながら森の中を進むと、樹上で木の実を食べているヤクザルを見つけました。その後も複数個体のヤクザルに出会うことができ、ヤクザルのマウンティングやグルーミングの様子をじっくり観察することができました。
西部の森は基本的にはシイ類やカシ類からなる照葉樹林の森ですが、亜熱帯気候の様相が強く、ガジュマルやアコウなどの亜熱帯の植物が混在しています。森の中を進んでいくと、そこには巨大なガジュマルの木がありました。樹上からたくさんの気根を下ろして地面に根を張る特異な樹形に生徒たちは驚いていました。さらに森を海岸に向かって下って海岸林に抜け、展望大岩に登って東シナ海を望む絶景を楽しみました。岩の上に座り、海岸林から山頂までの植生の移り変わりを眺めながら、屋久島の西部の森がなぜ世界自然遺産に選ばれたのかについてレクチャーを受けました。森の中を流れる半山川では、川の中に入り生き物探しに挑戦しました。ランチの後は再び森を歩き、戦後の開拓の跡や土石流の跡地などを巡りながら、屋久島の森の変化について学びました。宿へ帰る途中で大川之滝に立ち寄り、壮大な滝を眺めて本日の研修は終了です。
研修のプログラムは非常に充実しており、あっという間に1日が過ぎてしまいました。生徒たちも大満足の様子です。明日はスノーケリングで海中の観察に取り組みます。

3.7月31日(水) 研修3日目 A班 スノーケリング
屋久島は本日も晴天です。B班は昨日のA班と同じ西部林道のコースへ、私が引率するA班は一湊海水浴場の隣の入江でスノーケリングを行います。指導はYNACクラシックの松本先生で、午前中は基礎技術の習得練習です。まずは正しいマスクの装着方法やシュノーケルを使った呼吸法、フィンを使った泳ぎ方を学び、実際に海に入って基本的な動作を繰り返し練習しました。これで安全にスノーケリングを楽しむ準備が整いました。
お昼は海の音を聞きながらお弁当を食べ、午後は深場に出てサンゴや魚の観察を行います。透明度の高い海の中には所々にサンゴがあり、カクレクマノミやチョウチョウウオをはじめとした色とりどりの魚たちが泳いでいました。特に嬉しかったのはアオウミガメに出会えたことです。小さな個体でしたが、ゆったりとヒレを動かしながら泳ぎ、サンゴの間に頭を入れて海藻を食べる姿を披露してくれました。
スノーケリングでさまざまな海洋生物と出会い、これらの生物をじっくり観察することで、生徒たちは自然への理解を深めることができたはずです。また、松本先生の丁寧な指導のおかげで安心して楽しむことができ、屋久島の美しい海を体感できたことは生徒たちの貴重な経験になったと思います。今日も充実した研修ができて良かったです。

〈番外編 夜のお散歩〉
30日と31日の2日間、夕食の後に夏の夜の星空観察会を実施しました。屋久島の澄んだ空気のおかげで、空を見上げると星々が鮮やかに輝いています。昨夜は屋久島高校の脇の道を登ったところにある「憩いの森」へ、今夜は海岸に出て「火之上山緑地」へ行ってきました。寝そべって目を慣らすと、たくさんの星と天の川がはっきりと見えてきます。また、20分で3~4つの流れ星を見ることができました。天の川を初めて見たという生徒も多く、夜空を見上げる楽しさを味わいました。昨年の小笠原では天気が悪く、星空をまったく見ることができなかったので、とても良かったです。

4.8月1日(木) 研修4日目 A班 ランド線オープンフィールドミュージアム
B班は松本先生による「海と陸の境目を探す」という研修へ、A班は市川先生による「ランド線オープンフィールドミュージアム」と題した研修です。屋久島は標高差が大きく、植生の垂直分布が明確に見られます。A班はこれを実際に自分の眼で見て確かめる1日です。まずは屋久島最大の河川である安房川の松峰大橋から渓谷を眺め、花崗岩から成る島の中央部の山岳地域の急峻な地形と深い谷を確認しました。そこからバスでヤクスギランドへ向かう道を登りながら、標高による植生の違いを確かめていきました。標高300m付近までは、常緑広葉樹からなる照葉樹林が広がり、シイやカシなどが優占します。そこからは照葉樹林から屋久杉の森への移行帯となり、標高1000mを超えると屋久杉の原生林が広がります。
ヤクスギランドには屋久杉原生林が広がり、千年杉(樹齢1000年)や仏陀杉(樹齢1800年)の古木が存在します。それと同時に、ここには過去に伐採された屋久杉の巨大な切り株や平板を切り出して放置された巨大な幹が横たわっています。そしてそこからは新しい杉が次々と成長している様子を確かめました。昼食は荒川の大きな岩の上でお弁当を食べ、食後に川遊びをしました。川の水はとても澄んでいて、そのまま飲めるということなので試してみたら、冷たくてとても柔らかい感じの美味しい水でした。食後は渓流沿いの植物について学んだり、土石流跡地を見学し森林の復元の様子を観察したりしました。ヤクスギランドでは大きな屋久杉を眺めながら、森林の更新の様子や倒木の苔むした表面をなでたりし、屋久杉原生林の魅力を堪能しました。
最後はヤクスギランドからさらにバスで山の上に登り、樹齢3000年と推定される紀元杉を見学してきました。この巨大な古木の上には様々な着生植物が生育し、樹木の上に別の森が広がっているかのような様相でした。その巨大な姿に生徒たちも感銘を受けたようです。やはり屋久杉原生林は、屋久島の自然の象徴だと感じました。植生の垂直分布や屋久杉原生林の歴史的背景を学ぶことで、屋久島の自然環境の重要性を再認識することができた研修になりました。明日はいよいよ実習の最終日です。ゆっくり休んで明日に備えたいと思います。

5.8月2日(金) 研修5日目 A班 海と陸の境目を探す
実習最終日、B班はYNACの市川先生による「ランド線オープンフィールドミュージアム」、A班は同じくYNACの松本先生による「海と陸の境目を探す」という実習に取り組みます。屋久島の春田浜で行う実習は、潮間帯にどのような生物が生息しているのかを調べるとともに、干潮線から満潮線までの環境の変化に応じて生息する生物の変化を調べ、その変化から海と陸の境界線はどこにあるのかを考察するものです。
海岸に近い陸地から海に向かう100mラインを設定し、その特定のラインに沿って10mごとに生物相を調べる「トランセクト調査」に6人一組で2チームに分かれて挑戦しました。10mごとに簡易測量で基準点からの高低差を求め、表面を覆う地質の違いを記録し、その場所の生物相を調べることで、環境と生物との関係を明らかにします。基準点のコウライシバが地面を覆い、バッタが生息する場所は、少し海の方向に向かうとゴツゴツとした離水サンゴ礁に僅かなイワフサギの植生が見られる環境へと変化していきます。さらに海に近づくと浅いタイドプールが現れ、岩礁にはタマキビなどの貝やフジツボ、ヤドカリが見られるようになり、水中にはイソギンポやオヤビッチャなどの魚類やクモヒトデが見られるようになります。起点から70m近く離れると、離水サンゴ礁は侵食によって削られて起伏が少なくなり、深いタイドプールが出現し、その中にはキクメイシなどのサンゴ、大きなクリイロナマコやフクロノリなどの海藻が見られ、色鮮やかなソラスズメダイやチョウチョウウオが元気に泳いでいる姿が見られます。生徒たちは調査地点の特徴を手分けしながら記録していきます。フィールドは日光を遮るものがなく、調査環境としては過酷でしたが、その場所に棲む生物たちを探し出す面白さに生徒たちは夢中になっていました。
調査は午前中で切り上げ、お弁当の後は現地で調査結果のまとめです。基準点から海側100mまで10m間隔でどのような動植物が見られたのかを生物の絵を模造紙に書いて表としてまとめ、海と陸との境がどこにあるのかを考察しました。生徒たちは陸生の植物の生育が見られなくなる調査起点から40m先が「海と陸の境界」であると結論を出しました。そして松本先生から、樹木が生育できる境界線はどこか、陸生の動物が生息できる境界線はどこか、海の魚が生育できる境界はどこかなど、フィールドを見渡しながら説明をいただきました。生徒たちは、視点を変えることによって「海と陸の境界」が異なるということを学びました。
春田浜での調査を通じて、潮間帯の生物多様性や環境の変化に応じた生物の適応について深く理解することができました。YNACの松本先生、ありがとうございました。

〈番外編 ウミガメの孵化調査の見学〉
宿に戻って休憩した後、A班は屋久島最後の学習プログラムに出発します(B班は昨日実施しました)。目的地は永田いなか浜で、夕方から行われるアカウミガメの孵化調査の見学です。「永田いなか浜」は世界でも有数のアカウミガメの産卵地で、「ラムサール条約湿地」に登録されています。アカウミガメの産卵は4月上旬から7月中旬、卵の孵化は7月下旬から9月下旬です。
本日の講師は、初日の夜にお世話になった日本ウミガメ協会の屋久島支部の大野先生です。この時期、いなか浜では夕方から夜にかけてアカウミガメの孵化調査が行われています。現地で大野先生と合流し、まずは巣穴を踏まないように巣の目印や注意事項を教えていただきました。その後、大野先生の誘導で、本日調査する巣に向かいます。巣に到着したら、先生をぐるりと取り囲み、調査内容の説明を聞きながらじっくりと見学します。
調査するのは、5月23日に産卵され、最初の脱出が7月26日に起こった巣です。砂浜に埋められた巣を掘り起こし、巣の中に残っている卵を調べます。穴を掘っていくと、すぐに脱出していなかった生きた子ガメを4頭取り出しました。さらに掘り進めると、孵化はしたものの脱出できなかった遺骸が3頭見つかり、孵化が始まって卵殻が破れたものの外に出ることができずに死んでしまったものが40個、孵化していない卵が2個、きれいに破られた卵殻が72個出てきました。孵化していない卵を割ってみると、1個はまったく発生しておらず、もう1つは発生途中で死んでいました。この調査で、この巣への産卵数は114個で、そのうち孵化できたのが72個、さらにそのうち脱出して海に向かったものが65個とわかりました。しかし、周囲にはタヌキの足跡が無数にあり、何頭が海に辿り着いたのかは分かりません。このような調査によって得られた孵化率や生存率のデータは、ウミガメの生態や行動について理解を深めるための基盤となります。また、効果的な保護政策や管理計画の策定にも必要です。フィールドでの研究の地道さを生徒たちは感じてくれたと思います。
見学後、サプライズがあり、アカウミガメの1歳の個体の放流を行うことになりました!調査で見つかった巣穴から脱出できずに地中に埋まっていた幼体は、保護してある程度の大きさになるまで育て、今回のように放流するそうです。砂浜にウミガメを放すと、迷うことなく海に向かって行きました。そして、ちょうど永田浜はサンセットの時間となり、生徒たちにとって素晴らしい景色と感動的な場面は一生の思い出になったことでしょう。屋久島の永田いなか浜でのアカウミガメの孵化調査見学は、非常に有意義な経験となりました。

6.8月3日(土) 研修最終日
 屋久島での滞在期間中、観光地にはほとんど行かなかったので、フライト前に宮之浦にある観光センターに立ち寄り、生徒たちはお土産の購入です。帰路は屋久島空港から福岡空港、福岡空港から羽田空港で帰ってきました。屋久島から福岡までは、小型のプロペラ機で飛行高度が低いため、九州を横断する遊覧飛行のようでした。羽田からは貸し切りバスで、予定通りに20時に水戸に到着し、屋久島での5泊6日の自然探究活動が無事に終了しました。
美しく豊かな自然の中での活動は、生徒たちにとって素晴らしいかけがえのない経験となったはずです。YNACクラシックの市川さん、松本さんは、屋久島の自然を体系的に学ぶ学習プログラムで私たちの活動をサポートしてくださいました。貴重な知識とともにお二人の熱意ある指導が、私たちの体験をより豊かなものにしてくれました。本当にありがとうございました。また、ウミガメの孵化調査では、日本ウミガメ協会の大野さんやウミガメ館のスタッフの皆さんにお世話になりました。皆さまのウミガメに注ぐ情熱が、生徒たちを感動させました。宿泊先の民宿屋久島さんには温かいおもてなしをいただき、居心地の良い空間で過ごすことができました。おいしい料理と快適な宿泊環境に感謝しています。さらに、茨城交通の吉川さん、今橋さんにも感謝の意を表します。移動の際に私たちがスムーズに動けるよう、きめ細やかな配慮をしていただきました。おかげさまで安心して活動に集中することができました。
屋久島の自然の美しさと人々の温かさを忘れずに、また訪れたいと思います。この活動を支えてくださったすべての皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

文責 生物科 教諭 檜山 俊彦